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腱板断裂が肩関節痛を引き起こすのか?



「腱板が切れてるって言われたんですけど、リハビリで治るんですか?」

そんな質問を患者さんから受けた際に、どう答えたら良いでしょうか。患者さんによって背景は異なりますし、診断した医師の方針もありますので、定型文のように決まった表現で返すわけにはいきませんね。

ただし、現時点で分かっている科学的事実は、その伝え方を患者さんに合わせて工夫するにしても、患者さんに納得してもらって治療に前向きに参加してもらうためにも、うまく伝えたいと思うものです。

そこで、腱板損傷に対する保存療法を進める上で必要な科学的知見を整理するべく、関連する疫学研究や保存療法の効果に関する研究を引用して考察することとしました。まず、今回は腱板損傷と痛みの関係について考察してみます。


腱板損傷患者が病院で訴える症状は何か?


157名の腱板全層断裂患者を対象とし、初診時に来院理由を調査した結果。138/157名(87.9%)の来院理由は疼痛、17/157名(10.8%)が疼痛と筋力低下(MMT < grade 3)、2/157名(1.3%)が痛みを伴わない筋力低下(MMT < grade 3)であることが分かった。
Are pain location and physical examinations useful in locating a tear site of the rotator cuff?
Rotator cuff tear: physical examination and conservative treatment.

99%が痛みを原因に来院するということは、痛みのコントロールが治療の第1目標であると言って良さそうです。当然といえば当然で、痛みが出てなければ例え違和感や気になる点があっても、病院に行くまでには至らないことがほとんどかと思います。

さて、肩に痛みがあって、腱板損傷と診断された患者さん。MRIや超音波検査を受けて腱板が切れてますねと説明を受けると、その後の説明の有無にかかわらず「腱板が切れてるから痛いんですよね?リハビリで治るんですか?」って質問されます。もし医師が保存療法の指示を出したのであれば、「いえ、腱板が切れていても痛くない人はいますので、お困りの症状が痛みであれば、リハビリでも改善できるチャンスはあります」そんなお話をしたいですね。では、腱板が切れていても痛くない人はどれくらいいるのでしょうか。


無症候性腱板断裂はどれくらい存在するか?


30-99歳の肩に無症状の成人男女90名を対象とし、超音波検査により腱板の部分断裂または全層断裂の存在率を検証した結果。利き手と非利き手、男女間に腱板断裂存在率の差は認められなかった。腱板部分/全層断裂の存在率は、40代では10%前後にとどまったが、50代では30%を超え、60代では利き手側で50%を超えた。80歳以降では80%であった。
Rotator-cuff changes in asymptomatic adults. The effect of age, hand dominance and gender.

588名の肩関節痛患者を対象とし、無症候性および症候性腱板断裂の存在率を調査した研究。212名は両側ともに腱板損傷なし、199名は一側に部分/完全腱板断裂あり、177名は両側に部分/完全腱板断裂あり。有痛性の部分断裂が一側にある場合、対側肩には、4%に全層断裂、30%に部分断裂、損傷所見なしは66%。有痛性の腱板全層断裂が一側にある場合、無症候の対側肩には、35%に全層断裂、21%に部分断裂があり、損傷所見なしは44%。66歳以上では、両側性の腱板断裂が存在する確率は50%であった。
The demographic and morphological features of rotator cuff disease. A comparison of asymptomatic and symptomatic shoulders.

これらの疫学研究に基づくと、痛みがなくても腱板が切れている人は50代頃から増えて30%を超え、年齢とともにその発生率が増加して60代ではおおよそ50%、80代以降では80%にものぼると言えます。一側に有痛性の腱板部分(完全)断裂があれば、対側肩にもおよそ30%に部分(完全)断裂が認められということから、片方の肩のみに痛みがあって受診された方も、症状のない反対側の肩に腱板損傷があるかもしれないということになります。ただし、以上の研究に示されているように、切れていても痛くない場合もありますので、腱板断裂があっても痛みをコントロールできるチャンスはありそうです。


腱板の損傷がひどいと痛みも強くなる?


でも、肩をよく使っていて、長いこと症状に悩まされている人はそれだけ腱板断裂が進行していて、痛みも強いんじゃないか?これらは関連してるんじゃないか?そんな気がしませんでしょうか。私もそう感じていましたが、2014年にアメリカのラスベガスで開催されたSPTS Team Concept Conferenceの腱板損傷に関する講義の中で、ちょうどそんな疑問に応える当時最新の研究が紹介されていました。
1)Symptoms of pain do not correlate with rotator cuff tear severity: a cross-sectional study of 393 patients with a symptomatic atraumatic full-thickness rotator cuff tear.
2)The duration of symptoms does not correlate with rotator cuff tear severity or other patient-related features: a cross-sectional study of patients with atraumatic, full-thickness rotator cuff tears.
3)Shoulder activity level is not associated with the severity of symptomatic, atraumatic rotator cuff tears in patients electing nonoperative treatment.

これらの研究結果から、以下の3点が明らかになりました。ここでも、腱板損傷と痛みの関連性は示されていません。
1)腱板損傷の重症度と疼痛は関連しない
2)症状持続期間と腱板損傷の重症度は関連しない
3)肩の活動度と腱板損傷の重症度は関連しない


おわりに


どうやら、“腱板損傷があるから痛みがある”わけではないということは分かっているようです。加齢により腱板断裂は高頻度で認められるようになりますが、“腱板断裂があっても痛みがない人がいる”というのが実際です。では、なぜ肩に痛みが出るのでしょうか。無症候性の腱板断裂が有痛性になるのはなぜなのでしょうか。肩の痛みはどのくらいリハビリすればよくなるのでしょうか。これらの疑問については、また改めて考察してみたいと思います。



腱板損傷 1899368140493486048

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